■第5章 紫の格子

■第5章 紫 の 格 子

名もなき星へとたどり着いた。ワープスターはからんと音をたてて割れる。
ポップスターや7つの星よりも遠いところにある星でノヴァやポップスターは小さく見える。
 
静まり返った星。嫌な予感がする。
明け方の薄ピンクの光が淡く差し込む。不気味な明るさ。
「―――・・・甘い、甘いぞ!」
「はっ!?」
足元で黒い影が笑っていた。
ぼくはあわてて回避する 鮫のようにマルクが影から襲いかかってきた。
「マルクッ!」
「ポップスター支配の計画に妨げが入った。お前だ。」
「きみ1人のものじゃない・・・みんなの住む星だよ!」
「そう、オマエだ。星の戦士 カービィ。お前の存在自体が邪魔だ。お前はいつも私の邪魔ばかりする。」
ふっとマルクの姿が一瞬にして消えた。
ぼくは神経を研ぎ澄ませ、あたりを見回した。
「ここはお前の墓にピッタリの場所だ ここで死ね!」
「・・・後ろっ!うわぁっ!」
不意をつかれた。マルクの体当たりをもろに食らう。
ぼくは戦いに集中するほどの体力がなかった。
マルクが敵だなんてそんなこと考えたくもなかったし
ハーフムーンから戦いっぱなしのぼくの体は心身共に疲れていた。
 
「その程度?星の戦士はもっと楽しませてくれるものだと思ってたんだけどねえ~?」
「ポップスターは、ぼくが守るんだ!ぼくにしかできないんだ! ソード!」
ぼくは立ちあがるとソードを手に持った。その瞬間、 
シュルルルルッ!
生々しい赤色の薔薇と美しく尖っている刺が付いた茨が飛びかかる。
「その甘ったるい考えもろとも闇に沈め」
茨はギチギチと音をたてながらぼくを縛る。
「ううっ・・・マルク、マルク・・・!」
(         ・・・・・・マルク・・・?)
 
目を開けてみた。でもやっぱりボクの目の前には暗い夜が広がるだけだった。
けど、誰かが、誰かが、今ボクの名前を呼んだ気がする・・・
苦しそうでかすれていたけれど、優しい星の声・・・?
 
「黙れ 気易くボクの名前を呼ぶな。」
マルクはぼくをキッと睨んだ。茨の縛る力が増していく。
「うぁあぁぁああぁあああっ・・・!」
茨の刺がぼくの手足に食い込み引き裂いていく。体中に痛みが走る。
薔薇の香りと鉄の匂いと痛みとでぼくの感覚が麻痺していく。
痛みで溢れたぼくの涙を撫でながらマルクは切なそうにつぶやいた。
「汚い世界・・・」
 
(汚いよ こんな世界。)
 
「マルクはぁっ・・・どうして、どうして・・・ポップスターが、ほしいのっ・・・」
理由?理由なんてなかった。理由なんてどうでもいいじゃない。
 
(だからボクがきれいにしてあげるよ こんな世界。)
 
「キミを生かしておけばキミはいずれまたボクをまた倒しにくる。
なんなら今ここでキミを殺せばいいじゃない。
世界がボクの手におさまるのならキミの生死なんてどうでもいい。」
無邪気な旋律は響く。
「ぼくの、ぼくのしってるマルクは・・・」
茨の鞭が忍び寄る。
「あったかくって、やさしくって・・・今のきみは・・・まるで、」
ピシャッ!ピシャッ!
「ぎゃうぅうっ」
「はぁ、だからなんだっていうの?全部ボクなんだから。」
茨の鋭い刺が皮膚を切り裂き剥がしていく その度に血が噴き出す。
何度も何度も鞭を振る。劈く悲鳴。
カービィの体は鮮血で染まっていく。
 
「苦しい?苦しいよね。」
そんなの当たり前だ。息が出来ないくらい苦しい。
こほこほと咳き込む 喉を伝う血 喉が焼けるように熱い。
「ま、答えなくたっても分かるよ。でもボクはもっと苦しかったんだから。
今は気持ちいいよ キミが苦しんでいるから。」
「どう、してっ、くるしかっ・・た・・・?」
ひゅうひゅうと息をしながらぼくはマルクに尋ねる。
「能天気で馬鹿正直で馬鹿素直なキミに分かるわけないでしょ?」
「今も、今だってほんとは苦しいでしょ・・・?ねえ、本当のことを・・・んっ!?」
マルクはぼくの口に手を突っ込んだ。
「その生意気な口、一生きけないようにしてやろうか」
血まみれの舌をぐいと掴まれてぼくは嗚咽した。
血に染まったようなマルクの紅い目はぼくを突き刺すに睨みつける。
「うぐぇっ・・・・げほっげほっ」
口の中に広がる鉄の味。喉に留まっていた血が口から溢れた。
マルクの白くて細い指もまたぼくの血で赤く染まっていた。
その指を舌に絡ませた。
「汚い、馬鹿の味。」
その瞬間ぼくの体が地面に叩きつけられた。
茨は解かれ、地中へ潜っていく。
「ボクもう疲れちゃったからサ、はやく終わらせようよ。」
魔力を消費しただけのマルクと体力がないぼく。絶望的だった。
「マルクッ・・・・・」
 
(まただ・・・何も見えないのに、誰かがボクを・・・)
 
ぼくは気付いていた。マルクの本当の敵はぼくなんかじゃないって。
本当のマルクは闇の奥底にいるんだって・・・。
 

(第6章へ続く)